プロフィール

Author:川島隆一
1952年5月20日生
群馬県出身
教団小岩教会牧師


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 「イエスがゲネサレ湖畔に立っておられると、神の言葉を聞こうとして、群衆がその周りに押し寄せて来た。……そこでイエスは、そのうちの一そうであるシモンの持ち舟に乗り、岸から少し漕ぎ出すようにお頼みになった。そして、腰を下ろして舟から群衆に教え始められた」(ルカ5:1、3)。

 主イエスが宣教の開始と共に弟子を集められたとする記事は、四つの福音書で趣を異にする。マタイとマルコはこの出来事を、主イエスがバプテスマのヨハネから洗礼を受け、四十日四十夜荒れ野で悪魔の試みを受けられた後、郷里ナザレに帰り、神の国の福音を宣べ伝えた記事の後に置いている。それに対しルカは、主イエスが郷里ナザレで神の国の福音を宣べ伝えてから漁師たちを召し出すまでの間に、「汚れた霊に取り憑かれた男」(4:31 以下)の癒しと、「多くの病人」(4:38 以下)の癒し、そしてユダヤの諸会堂を巡って伝道された記事(4:42 以下)を置いているのである(これら共観福音書と大きく異なるのはヨハネ福音書である。ヨハネは主イエスの最初の弟子は、洗礼者の二人の弟子であったと記す(1:35以下))。
 マタイとマルコとルカは「共観福音書」と言われ、共通の伝承を用いてぞれぞれの福音書を書いているだけに、この違いは興味深い。マタイやマルコが伝える弟子の召命の記事には、このことが起こった時や場所はもとより、詳しい事情は一切触れられていない。私たちはかろうじてシモンとアンデレは貧しい漁師であり、ヤコブとヨハネは比較的裕福、しかも家族との絆を断ち切って主イエスに従ったということを知りうるのみである。こうした具体的情報が少なければ少ないほど、ここで起こっている弟子の召命は一つの典型に近づく。つまり、この記事の中に読者は自分自身の召命を見ることが容易になるのである。
 弟子の召命に関してマタイとマルコが具体的な情報をほとんど記していないのに対して、ルカはかなり詳しく描いている。しかもルカが伝える弟子の召命記事の中心にはシモン・ペトロが立っているのである。

 ところで、ガリラヤの漁師たちの召命記事には、二つの〈なぜ〉がある。一つは、「なぜ、主イエスはガリラヤの漁師たちを、ご自分の仕事を引き継ぐ者として選ばれたのか」という〈なぜ〉である。なぜ主イエスは、エルサレムの名だたる人々の中から弟子をお選びにならなかったのか、という〈なぜ〉である。この〈なぜ〉には、旧約を貫く神の民の選び、すなわちホセア、申命記、エレミヤを経て、新約に至る聖書的価値観の革命的性格、「愛するに値しない者への神の愛」(アガペー)が貫かれているように思う。

 そしてもう一つの〈なぜ〉は、「なぜ、ガリラヤの漁師たちは、主イエスの招きに〈直ちに(すぐに)〉応じることができたのか」という〈なぜ〉である。こんなことを言った人がいる。「招きを受けた人々の側では、何の準備もなされていない。彼らはイエスの説教(マルコ 1:14-15)の聴衆にすら属していない。」マタイとマルコによれば、このとき主イエスとガリラヤの漁師たちは初対面である。にもかかわらず、 漁師たちは「人間をとる漁師にする」という主イエスの呼びかけに即座に応じているのである。
 なぜ彼らは、主イエスの招きに即座に応じることができたのか。この〈なぜ〉に答えているのが、ルカの召命記事である。ルカは先ほど触れたように、主イエスが郷里ナザレに帰り、神の国の福音を宣べ伝え始めてから弟子たちを召集するまでの間に、「汚れた霊に取り憑かれた男」の癒しや、「多くの病人」の癒し、そしてユダヤの諸会堂を巡って伝道された記事を置いている。しかも4章38節から分かるように、ペトロは主イエスに召される前、すでに主イエスと出会っている。主イエスは会堂を出るとシモンの家に入り、高熱で苦しんでいたペトロの姑を癒したのである。こうした経緯を経て、ペトロたちガリラヤの漁師_その中心にペトロが立っている_の召命が起こるのである。

 このように、マタイとマルコが伝える漁師たちの召命記事はすべてのキリストの弟子の召命に敷衍できるのに対して、ルカが記す召命記事はペトロに特化している。ルカは、弟子の召命においてペトロを中心に置くだけではない。初代教会にとって躓きとなるペトロの失態(マタイ16:23、並行マルコ8:33「サタン、引き下がれ」)にも触れていない。
 唯一、主イエスの言葉と業の後に、弟子たちの言葉と業を記したルカの視線から私たちは、主イエス亡き後、ユダヤ教側からの迫害にさらされた弟子集団を一つにまとめたペトロの働きの大きさを知る(ルカ22:31以下)。召命記事にはその視線が反映している。

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